藤島武二
《黒扇》
1908-09年 油彩・カンヴァス
現在、藤島武二のローマ時代の代表作として広く知られた作品ですが、発表されたのは画家の最晩年のことです。画室の奥深く、中二階へ上がる階段の裏にカンヴァスのまま長く鋲で留められていたといいます。病床にあった藤島の代わりに弟子の小堀四郎が取り出し、木枠に張ってニスを塗ったところきれいな画面が蘇って、藤島がとても喜んだという逸話が伝えられます。なぜ人に見せようとしなかったのかは、モデルと画家の特別なかかわりなど、私たちに様々な想像をかき立てさせますが、その理由はよくわかりません。
まっすぐにこちらに向けるもの言いたげな眼差し、鼻梁や頰のハイライトがモデルの美貌を引き立たせ、青を効果的に用いた陰翳が、画面に生き生きとした輝きと深みをもたらしています。白いベールや黒い扇は、ためらいのない力強い筆づかいで大づかみに描かれています。繊細な色彩の取り合わせと大胆な筆の動きの絶妙な組み合わせが、見る者の心をとらえます。モデルが身につけるベールや扇は、19世紀ヨーロッパで様々に浸透していたスペイン趣味を思い起こさせます。エドゥアール・マネの作品などを通じてパリで体感した時代の嗜好を、ローマでも追体験しているかのようです。終生、身近において決して手放そうとしなかったこの作品を、藤島はおそらく亡くなる前年に、信頼するコレクター石橋正二郎に託しました。
まっすぐにこちらに向けるもの言いたげな眼差し、鼻梁や頰のハイライトがモデルの美貌を引き立たせ、青を効果的に用いた陰翳が、画面に生き生きとした輝きと深みをもたらしています。白いベールや黒い扇は、ためらいのない力強い筆づかいで大づかみに描かれています。繊細な色彩の取り合わせと大胆な筆の動きの絶妙な組み合わせが、見る者の心をとらえます。モデルが身につけるベールや扇は、19世紀ヨーロッパで様々に浸透していたスペイン趣味を思い起こさせます。エドゥアール・マネの作品などを通じてパリで体感した時代の嗜好を、ローマでも追体験しているかのようです。終生、身近において決して手放そうとしなかったこの作品を、藤島はおそらく亡くなる前年に、信頼するコレクター石橋正二郎に託しました。
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