パステルは、18世紀のフランスで肖像画を描くために盛んに使われた画材です。ルノワールが1880年代に制作したパステルの肖像画には、ロココ芸術を意識した淡い色彩と柔らかな表現が見られます。近年の研究で、この作品のモデルはブーローニュ在住の銀行家、イッポリット・アダンの娘シュザンヌと特定されました。1877年生まれのシュザンヌは、4姉妹の末っ子でした。ほぼ同じ構図のパステル画(1887年、吉野石膏コレクション)が長らくアダン家子孫に所有されていたのに対し、この作品は画家の手元に残され、1923年に松方幸次郎に購入されました。