Paris Report

Column|2017.08.10
パリ出張日記 3

「ブリヂストン美術館の名品−石橋財団コレクション展」の会場となっているオランジュリー美術館では、本展と同時にオランジュリー美術館のコレクション展示も行われています。そのなかに一室、アフリカの美術と見られるオブジェや複製画パネル、印刷物などが陳列されている小部屋があります。何のための部屋でしょうか。

ここは、オランジュリー美術館の主要コレクション「ヴァルテール=ギヨームコレクション」の背景や沿革を紹介する展示室です。
同コレクションは主に、パリの画商ポール・ギヨーム(1891-1934)が収集した作品群によって形成されていますが、ギヨームの旧蔵品の中には現在他の美術館や個人に所有されている作品もあり、それらがこの展示室では複製画によって紹介されています。また彼はアフリカ美術をいち早くパリの地で売り出した人物でもあり、ケースのなかにはそうした活動を窺い知ることができる作品や、刊行物、記録資料が展示されているのです。

こうした展示はオリジナルの名画を見るよりも退屈に思われるかもしれませんが、実はコレクションの歴史や特徴を知ることができる、とても興味深いものです。またそれは、何十年にもわたる調査研究と資料収集の賜物として築きあげられる展示です。それをお伝えするため、ここで特別に美術館が収集蓄積してきた資料群の一部をご覧いただきたいと思います。

これは、オランジュリー美術館が集成しているアーカイヴ資料の一部分です。現在の所蔵先に関係なく、かつてギヨームが所有していた作品1点につき1つのファイルが作成され、作品ごとに画像写真や参考文献のコピーが収納されています。先ほどの複製画展示の基盤となるような資料群です。

オランジュリー美術館所蔵の作品については、画像や文献のコピーだけでなく、修復記録、額装情報、展覧会出品録、点検記録といった作品のカルテのような書類が保管されています。これらは各作品の歴史をひもとくために欠かせない資料です。

また、調査研究にともなって収集された文献が蔵書として整理されることで、ライブラリーが形成されていきます。ギヨームと同時代の印刷物や展覧会カタログは、本文冒頭の展示で掲出されるような展示物にもなり得ます。

こうした資料の集成は、一夜にしてできるものでないばかりか、数年で完成するものでもありません。オランジュリー美術館は25年間にわたり、資料の収集と内容更新を継続しています。そしてそれはこれからも学芸員・司書・アーキヴィストたちが世代を超えてバトンをつなぎながら永遠に続けられていく、終わりのない作業です。
あの小さなひと部屋の資料展示を支えている大きな物語が、そこにあります。(Y.K)

※同館のライブラリー・アーカイヴセンターは、内部の職員と事前に許可を得た研究者を対象に公開されています。
公式サイトはこちら
※写真の撮影と掲載は、オランジュリー美術館より特別に許可を得ています。