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ワークショップ「ほぼ津上さん ながれゆく ひとの流れ、まちの流れ、ときの流れ」(2)風景の在処
8月5日(土)、講師にABSTRACTION展出品作家の津上みゆきさんをお迎えしてワークショップ「ほぼ津上さん ながれゆく ひとの流れ、まちの流れ、ときの流れ」(2)風景の在処 を開催しました。11歳から一般の方まで、17人の皆さんが参加されました。
津上さんは、1998年頃より「View」というタイトルを冠した作品を発表されています。この言葉には、①風景、眺め、②観察、観点、見方といった意味が込められています。その制作プロセスは、いつも見ることから始まり、スケッチ、スタディ、タブローなどに繋がっていきます。今回のワークショップでは、そうした制作活動のさらに前段階にあたる「なぜ私はそれを風景として見ようと思うのか」といった、自分自身を形づくるもの、こと、を掘り下げ、一人ひとりが自己の原点や視点を探る旅に出ました。
はじめに、津上さんから参加者に30の質問が投げかけられました。例えば「1.好きな香りは何ですか?、2.その香りの色と、同じ場所はどこですか?、3.その香りと同じ形の食べ物は?、10.想像してください。地面に穴が開いています。何が見えますか?、11.想像してください。海の底に穴が開いています。どこに通じますか?、12.あなたが穴をあけてみたいものを教えてください、26.ビルの上にいます。そこから何が見えますか?、27.風が吹いてきました。風の形を教えてください」など。皆さんは、これらの質問に20秒ほどの短時間で、色や線、形(あるいは言葉)で次々と応答しました。
続いて、付箋を好みの形に切って旅の仲間である皆さんの自己紹介。「ウサギが好きだからウサギの形。今の気分は黄色。レモン味のかき氷が食べたいから」「木の芽の形。今の気分は青。空に伸びていくイメージ」「暑くてぼんやりした形。今の気分は、水が恋しいのでブルー」など、自分を形と色で表現しました。
そして、いよいよ本題です。今回の旅のお供(素材)は、久留米絣で仕立てたオリジナルのカンヴァスです。久留米絣は、アーティゾン(旧ブリヂストン)美術館の創設者、石橋正二郎の生誕地である福岡県久留米市で200年ほど前に考案されたものです。参考に、アクリルガッシュ、ポンキー、クレヨン、色鉛筆など、それぞれの画材の色がどのように見えるかを示したサンプルも紹介されました。
約1時間。皆さんは、集中して作業に没頭されました。発表の様子を少しだけご紹介すると、「久留米絣の十字の白色を光に見立てて描いた。タイトルは、月の道」「タイトルは、私の雪山。富山の冬は、空の色が紫色の実感がある。なかなか上手くはいかないが、必死に描いた。」「タイトルは、海のひかり。最近、自分が海が好きであることを自覚した。人間の原点は海だと思う。久留米絣の模様が海に差し込む光に見えて、試行錯誤して描いた」「(津上さんからの)穴を開けたいものは?との問いから、障子が浮かんだ。子ども時代のことが蘇り、神社の近くの森の中をイメージして描いた」など、素材との出会いも楽しみながら、記憶と現在を行ったり来たりして、一人ひとりが充実した時間を過ごされたことが伝わってきました。描いた後で、再び今の気分の色を選んでみると、同じ色でも明度が変わったり、まったく違う色の気分になっていた方もいて、「集中して作業をして元気が出た」「充実した時間になった」「新たな素材に緊張したが楽しかった」「自宅で続きを完成させたい」などの感想も聞かれました。
(1)あなたの視点、(2)風景の在処。2回にわたって開催したワークショップ「ほぼ津上さん ながれゆく ひとの流れ、まちの流れ、ときの流れ」。ながれゆく時の中にある、自分の歩幅や視点を大切に味わうひとときとなりました。ABSTRACTION展の開催は、いよいよ8月20日(日)まで。国内外から集まった作品の数々に、ぜひ会いにいらしてください。
[教育普及部学芸員K.H.]