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土曜講座「空間と作品」展(全2回) 第1回「光とアート」
7月27日の土曜講座は、照明家の豊久将三氏をお迎えして「光とアート」というテーマでご講演いただきました。豊久氏とアーティゾン美術館の関係は、現在4階展示室の一角にある展示ケースの部屋について、新美術館の建築設計の段階からご相談したことに遡ります。
本講座では、まずはじめにアートと光の関係性について考える際の主な範囲として、(1)アートと光と建築空間という3つの要素を熟考する。(2)建築空間そのものが彫刻的である場合、主役であるアートと並行して光はどうあるべきか。両者を解釈しながら、空間が美しく見えるように熟考する。(3)展示ケースというガラスがある場合。アート、光、ケース、空間という4つの要素を考えながら光の構築を行う。という3つの視点について各地の事例とともにご紹介いただきました。アーティゾン美術館4階の展示ケース室は、(3)の事例に該当します。「絶対的にガラスで仕切られた空間だからこその表現が可能だろう」という考えから出発し、背後の空間の存在を消して、いかに作品に集中していただけるかを目指し、将来使われるであろう様々な展示のシーンも想定して、それらに対応できる光の設計が限られた空間の中に施されています。
後半は、豊久氏がアートのための光をどのように考え、挑戦を繰り返しておられるのか。30年に渡るご経験を振り返りながらお話いただきました。例えば、MoMA(ニューヨーク近代美術館)との共同実験として、複数の異なる光を展示室に持ち込み、一点一点の作品にふさわしい光と空間について検証と議論を繰り返されたこと。同じ頃に、アメリカ航空宇宙局(NASA)のJPL(Jet Propulsion Laborately)の研究員たちとの交流により、スペーステクノロジーにおける最先端の光の知識や技術を集約することができたこと等。世界的に活躍されてきた豊久氏が、さまざまな仕事のなかで追求された「波長と色の関係」、「アートと光の周辺環境」、「光源そのものの問題」についてもさまざまな実験データとともにご紹介いただきました。講座を通して、豊久氏によって生み出される空間の背後に、光に対する最先端の技術があることに加えて、究極的ともいえるアートとの一対一の対話が繰り返されていることを実感するひとときとなりました。
開催中の「空間と作品」展では、4階の展示ケース室に加えて、6階展示室の照明を豊久氏に監修していただいています。特に、6階に展示中の円山応挙の《竹に狗子波に鴨図襖》は、東京のこの場所で感じられる太陽の光を再現した照明となっております。江戸時代の人々が生活の中で襖絵を楽しんでいた空間にも思いを馳せて、ぜひ会場でじっくりとお楽しみください。
(教育普及部学芸員 細矢 芳)