土曜講座 「アーティストトーク」第1回「ダムタイプと来たるべき未来の社会」

2023.03.30

鼎談:高谷史郎(アーティスト)×柄谷行人(哲学者)×近藤康太郎(作家、評論家)

 

土曜講座「アーティストトーク」(全2回)の第1回「ダムタイプと来たるべき未来の社会」を開催しました。ダムタイプの創設期からのメンバーである高谷史郎氏より、今お話を伺いたい人として柄谷行人氏のお名前を挙げていただきました。両者の出会いは、1993年バルセロナで開かれた「Any会議」(建築と哲学を架橋する国際会議・第3回「Anyway」)に遡り、その後も柄谷氏の講演会や著作、ダムタイプの展覧会など、折にふれて交流が続き影響を受けて来られたといいます。今回のトークにあたって柄谷氏は「ダムタイプと高谷史郎には、『交換様式D』への志向性がある。交換様式Dとは、柄谷行人の造語で、来るべき未来の社会をあらわす。それは、現在主要な、金銭による商品交換、国家による支配、共同体による拘束などを超える社会のあり方である。これは、いまだかつて実在したことのない社会形態である。交換様式Dは、人間の努力で作り出すことができない。それは『向こうから来る』ほかない。戦争と経済恐慌の危機が急速に高まる現在、交換様式Dは、希望の別名でもある。」と、テキストを寄せてくださり、「未来社会を先取りした生活を営む、朝日新聞記者にして猟師・農民でもある、近藤康太郎を交えて、希望を語る。」として、今回の鼎談となりました。

 

はじめに柄谷氏よりダムタイプのダム(dumb,アメリカ英語)とは、大阪弁で言えばアホ、東京弁でいえばマヌケを意味する言葉であり、それはバカとは少し違うものであるとしたうえで、近藤康太郎氏の著書『アロハで田植え、はじめました』『アロハで猟師、はじめました』(河出書房新社)をはじめ、そのおもしろい活動についてダムな人として紹介がありました。そして近藤氏からは、ご自身の身体を使ってのお米づくりや狩猟といった活動が、産業とは異なる形態であることで(金銭のやりとりではない)思いがけない交換が起こっていることを、柄谷氏の著書『力と交換様式』(岩波書店)にも触れながらお話いただきました。それを受けて高谷史郎氏は、作品はコミュニケーションの一つの手段であり「手紙を書いてボトルに入れ、海に流すような感じ。それが誰かに届いたのか、どこに辿り着くのか分からない。写真を撮るのが難しいインスタ映えしない作品を、キョロキョロと見回して数秒で立ち去っていく人がいる中で、1-2時間座って音楽を聞くような態度でじっくり体験してくれる人がいる。そういう人がいるから、作品をつくっているのかな。」と応じていました。

 

ダムというあり方や態度に思いを広げるとともに、ダムタイプの活動が、美術、演劇、ダンスといった既成のジャンルにとらわれない表現形態を横断するものであることや、プロジェクト毎に参加メンバーが変化し、ゆるやかなコラボレーションによってなされていることの魅力が、改めて紐解かれるひとときとなりました。[アーティゾン美術館教育普及部学芸員K.H.

 

写真1枚目左より:近藤康太郎氏、柄谷行人氏、高谷史郎氏、内海潤也(アーティゾン美術館)

写真撮影:大野隆介

土曜講座 「アーティストトーク」第1回「ダムタイプと来たるべき未来の社会」
左から近藤康太郎氏、柄谷行人氏、高谷史郎氏、内海潤也(アーティゾン美術館)
土曜講座 「アーティストトーク」第1回「ダムタイプと来たるべき未来の社会」
撮影:大野隆介
土曜講座 「アーティストトーク」第1回「ダムタイプと来たるべき未来の社会」
土曜講座 「アーティストトーク」第1回「ダムタイプと来たるべき未来の社会」
撮影:大野隆介