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土曜講座 地中海学会連続講演会Vol.3「動物の不思議」第3回
地中海学会連続講演会Vol.3「動物の不思議」(全3回)の最終回は、本シリーズの企画者、小池寿子氏(國學院大学教授)をお迎えし、「豊穣と生死をかたどる牛−聖なる力の宿り−」というテーマでご講演いただきました。
はじめに、これまでの2回にわたる講座を振り返りつつ、象に乗ってアルプスを超えたカルタゴ将軍のハンニバル(BC247-183頃)、馬(あるいはロバ)でアルプスを超えたナポレオンなど将軍や皇帝を乗せる象や馬の図像が紹介されました。古代より国家・祝祭・凱旋というテーマにおいて動物が登場することや、肥沃な三日月地帯と呼ばれる地域をさまざまな王朝が支配し占領したことで、古代都市国家が共通のある信仰を持っていたことが推測されます。
続いて、1.古代世界における牛、2.宗教と牛、と題し、三日月型の角の間に満月をはさむエジプトの聖牛アピス、ギリシア神話で牛に変身したゼウスに拐われるエウロペ、ゼウスの恋人で牝牛に姿を変えるイオ、クレタ島のミノス王妃と牡牛の間に生まれた半人半牛の怪物ミノタウロス。ミトラ(ミトラス)教の牛を屠るミトラ(豊穣祈願)、ユダヤ教の洗礼盤(ソロモンの神殿における海)を支える牛、中世キリスト教世界で福音書記者ルカを表象する牛、そして農耕や聖堂建築において資材運搬を担う牛の姿など。力強く、聖なる牛のさまざまな表象を辿りました。
最後に3.牛に乗る死「盲目の舞踏」を巡って、と題し、『盲目の舞踏』(ピエール・ミショー(1460-66年に活躍)、ジュネーヴ大学図書館所蔵写本)、「死の凱旋」(ペトラルカ『凱旋』16世紀初期フランス写本、パリ国立図書館所蔵)の図像源泉について考察されました。イタリア・ルネサンスの祝祭において、一角獣や牛、象が登場したと推測されるものの具体的な資料は乏しく、なぜ牛が死を乗せるのか?死者の凱旋車を引くのか?という謎は残ります。
戦争に用いられることのない犠牲獣であり、生死を司る聖なる存在でもある牛。その魅力と謎を、古代から20世紀に及ぶ美術の歴史を通してじっくり味わうひとときとなりました。
[アーティゾン美術館教育普及部学芸員K.H.]