今村紫紅
《海の幸山の幸屛風(左隻)》
1908年 絹本金地著色
28歳のときの作品。紫紅は、それまで、巽画会や紅児会で、史実に忠実な歴史画の研さんに励んでいました。この絵も、『古事記』の海幸彦と山幸彦の物語に取材したものですが、それまでの作品とは趣を異にしています。えがかれているのは、猟の道具を持った山幸彦に、漁の道具を持った豊玉姫と侍女で、特定の場面が再現されているわけではなさそうです。この絵で紫紅が目指したのは、古代をイメージさせる気風の表現でした。明確な輪郭線のない面的な彩色や、絵絹の裏側から押した金箔の鈍く輝く背景によって、神話の世界が演出されています。この前年、岡倉天心に指導を受けたことと無関係ではなく、新たな方向性を示した作品といえます。
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