椅子に腰掛けた女性が、手元に視線を落とし縫い物に集中している様子が描かれています。淡い緑色の背景に、女性の肩掛けのストライプの配色が美しく映えています。右下の署名と年記から、この作品が1902(明治35)年3月に制作されたものだとわかります。これは浅井忠が最後のグレー=シュル=ロワン滞在を終え、パリに戻ってすぐの時期にあたります。パリの下宿の門番の妻をモデルにしたと伝えられ、明るい色彩感覚や、自由で軽快な筆のタッチが滞欧期の作風の特徴を示しています。風景画が多く描かれた滞欧期において、この作品は貴重な人物画のひとつです。