拡大《サーカスの舞台裏》

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック

《サーカスの舞台裏》

1887年頃  油彩・カンヴァス

トゥールーズ=ロートレックは、大衆文化花開く「美しき時代」のパリに出て、モンマルトルに住み、ダンス・ホール、劇場や娼館などに入り浸り、歓楽の街に生きる人々の華やかな姿を描くと同時に、その悲哀を描いて数々の傑作を残しました。薄暗い光景の中央には、逞しい体軀の馬がすっくと立ち、正面を見据えています。その右前で馬の手綱に手をかけようとしているだぶだぶの衣装に滑稽な帽子をかぶっているのは道化師でしょう。その右側には舞台を仕切る馬使いの男がその様子を見守っています。彼らの左側には、華やかな衣装に身を包んだ女曲馬師が静かに歩み寄らんとしています。華やかな表舞台とは対照的な薄暗い舞台裏を描いていることを意識してか、画面はモノトーンで描かれていますが、静寂の中に本番を前にした緊張感が、ロートレック独特の線描と光と影の濃淡の配置によって伝えられています。1880年代半ば頃より、ロートレックは、モンマルトルのフェルナンド・サーカスを主題として作品を制作しました。シカゴ美術館所蔵の《サーカスの曲馬師》もそのひとつです。この作品もこれに連なるものと考えられています。シカゴ作品が動的な構図の妙を伝えるならば、この作品は対照的に静的な構図の妙を見る者に伝えます。右下の署名は二重に記されています。完成当時、ロートレックは父親の指示により、本名を名乗ることが禁じられており、名前を逆さにして “Tréclau”と記していました。これがのちに“HTLautrec”と上書きされたのです。

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