拡大《帽子を持てる女》

坂本繁二郎

《帽子を持てる女》

1923年  油彩・カンヴァス

坂本繁二郎は、1921(大正10)年、39歳で渡仏しました。当初はシャルル・ゲランの画塾アカデミー・コラロッシへ通いましたが、半年ほどで辞め、1924年帰国の途につくまで制作に専念しました。牛や馬、月や静物を題材とする作品でよく知られますが、滞欧中は人物画も多く手がけました。
この作品のモデルは襟元の広くあいた上衣をまとい、つばの大きな帽子を携え、安定感のある姿に仕上げられています。胸元のボタンと帽子の円形が呼応するリズムとなり、下方より上方へ、帽子、ボタン、左目、さらにはモデルの視線の行先を見る者に意識させ、空間の広がりを感じさせます。髪の毛、衣服、帽子と全体に茶色を基調とした落ち着いた装いですが、衣服に施された色面はその色調により互いにひき立てあっています。その中の一色エメラルドグリーンが背景にも用いられ、画面全体は明るい印象です。
1923年、グラン・パレで開催されたサロン・ドートンヌの会場の一角に二科展十周年事業の展示が特設され、そこにこの作品は展示されました。坂本は下宿先のドアに「面会謝絶」の札を掲げてその準備に励みました。尊敬するカミーユ・コローの《真珠の女》(1868–70年、ルーヴル美術館)に範を求めたともいわれるこの作品は、滞欧期の代表作です。それ以前の作品と比べると、分割された色の面が強調され、画面はより装飾的にまとめられています。坂本にとって作風の転換を図った挑戦作でもありました。

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