拡大《天平の面影》

藤島武二

《天平の面影》

1902年  油彩・カンヴァス

藤島武二は、明治30年代から昭和10年代まで日本の洋画壇を牽引し、また東京美術学校の指導者として後進を育てた画家です。日本人による油彩画のあり方を突き詰めて追求し、その技法と材料の特性を生かし切った画面をつくり出しました。
30代半ばに描かれたこの作品は、明治浪漫主義と呼ばれ、時間や空間を超えた彼方への感情を表そうとした時代の典型作です。前年の奈良旅行で心に留めた8世紀の仏像、仏画、正倉院宝物をもとにして、藤島はモティーフを組み合わせました。花咲く桐の下に立つ女性は、奈良時代の衣装を身につけ、箜篌という古代楽器を手にしています。その健康的な体軀は、右脚に体重を載せ、自由の利く左膝を少し前に出すことによって、頭頂に至るまで緩やかに体の軸線がS 字を描いています。古代ギリシアで生み出されたコントラポストと呼ばれるポーズです。東洋と西洋の2つの古代への憧憬を、藤島は具体的な女性像に重ね合わせました。背景の金地は、その物語性をより強める効果を持っています。シルクロードを通じて西洋文化が流入し、日本の古典古代ともいうべき文化が栄えた奈良時代への憧れ。画家の感情を見る者に共感させる力をこの作品は持っています。白馬会展に発表されると、ただちに象徴派詩人蒲原有明が反応し、この作品を美麗な言葉でうたい上げました。

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