エドゥアール・マネ
《自画像》
1878-79年 油彩・カンヴァス
マネは、近代都市パリの風俗を描いたことで知られますが、肖像画の名手でもありました。そのようなマネの油彩による自画像は2点しか残されていません(もう1点は個人蔵)。どちらもほぼ同じ時期、46、7歳のときの作品です。画壇での評価が確立されたことへの自負心から、これらの自画像を制作したと考えられています。この作品の暗い無地の背景は、当時パリで流行していたスペイン絵画からの影響を感じさせます。マネの鋭い眼差しや、赤みが差した頰や耳など、顔の部分はていねいに仕上げられています。その一方で上着やズボンには大胆な筆あとが残されています。男性の上着では襟の右側が左側の上に重なるのがふつうですが、この作品では、襟の合わせが左右逆になっています。それはマネが鏡を見て描いたために起きた現象で、鏡像では左右が反転します。この頃から不自由になり始めた左脚を支脚にすることはあり得ませんでした。そのため、この自画像でも右脚で身体を支えています。画家という職業がわかるように絵筆やパレットを持つこともなく、両手をポケットに入れて立つ自分の姿のみを描く態度には、一種の決意を感じます。この作品はとても私的なもので、マネは親しい人にしか見せなかったとも言われています。
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