作者不詳
《古今和歌集巻一断簡 高野切》
平安時代 11世紀 紙本墨書
『高野切本古今和歌集』の断簡です。『古今和歌集』は、905(延喜5)年に醍醐天皇の詔によって撰集されたのですが、その原本は今に伝わらず、現存する最も古い写本が高野切本です。その成立は11世紀、もとは巻子20巻だったと考えられています。その内、当初のかたちを残すのは巻5、巻8、巻20のみ。部分的に伝わるのが、巻1、巻2、巻3、巻9、巻18、巻19。過去の記述から、1544(天文13)年の時点では20巻揃った状態で近衛家に伝わっていたと推察されるのですが、長い年月の間に分割、散逸となったのでした。現存する高野切本を書風から見ると、第1種(巻1、巻9、巻20)、第2種(巻2、巻3、巻5、巻8)、第3種(巻18、巻19)に分類され、3人の能書家による寄合書と考えられます。初巻と末巻を担当した第1種の筆者は、各巻の題字も手がけており、この高野切本の最高責任者であった可能性が考えられます。「さくらのはなのさかりに」という詞書きで始まるこの断簡は、巻1の春歌上の末尾にあたります。掛け幅に仕立てた際か、本紙両端に空間を設けるため1行ずつ文字が削り取られていますが、収める和歌は5首で、いずれも桜の花にちなんだ和歌です。白麻紙の上できらきらと光るのは雲母砂子。贅沢なほど一面にまき散らされ、平安王朝文化の典雅で優美な様子が偲ばれます。
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